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高松高等裁判所 昭和58年(行コ)3号 判決 1983年9月26日

愛媛県今治市本町三丁目一番地三一

控訴人

葛山康史

愛媛県今治市常盤町四丁目五番地二

被控訴人

今治税務署長

辻誠三

右指定代理人

西口元

三谷久寿彦

横山正之

右指定代理人

直井正

西山陽男

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人の当審における追加請求の訴えを却下する。

三  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

(当事者の申立)

一  控訴人

1  原判決主文第二、三項を取り消す。

2  被控訴人が控訴人の昭和五四年分所得税について昭和五五年五月二六日付でなした更生処分及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件更正処分等」という。)並びに同年一二月三日付でなした再更生処分及び過少申告加算税の変更決定(以下「本件再更正処分等」という。)を取り消す(本件再更正処分等の取消しを求める訴えは、当審で追加したものである。)

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文第一、三項同旨

(当事者の主張)

控訴人の主張として次のとおり付加補正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人が昭和五二年分の所得税確定申告書を提出した際、今治税務署員は「控訴人が父葛山宜佳(以下「宜佳」という。)と一緒に申告したのでは、税額が異常に高くなり著しく不合理であるから、民法上は宜佳が世帯主であるが、税法上は控訴人を世帯主本人とみなすので、再度申告し直すよう」指示し、右申告書の世帯主らんに控訴人を本人と記入したので、控訴人は右教示を忠実に守り、毎年世帯主らんに本人と記入して確定申告を行っている。従って控訴人を宜佳の「合算対象世帯員」に該当するとしてなした本件更正処分等及び本件再更正処分等は、いずれも信義則に反し当然無効である。

二  完全失業者で担税力のない控訴人に対し資産所得の合算制度を適用してなした本件更正処分等及び本件再正処分等は、常識に反し著しく不合理であるから、無効である。

三  原判決三枚目表七、八行目の「(再更正処分によりなお維持されている部分。以下同じ。)」を「及び再更正処分等」と、同九行目の「本件更正処分等」を、「右各処分等」とそれぞれ改める。

(証拠関係)

本件記録中の原審及び当審における書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  控訴人の本訴請求は、(一)被控訴人が昭和五五年五月二六日付で控訴人の昭和五四年年分所得税についてした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定(本件更正処分等)の取消し及び(二)被控訴人が右更正処分等に対する異議申立てにつき、同年七月三日付でした異議棄却決定の取消しを求めるものであったが、原審は、右(二)につき訴えを却下し(原判決主文第一項)、(一)につき請求を棄却した(同第二項)ところ、控訴人は、その棄却部分のみを不服として本件控訴を提起し、当審においてさらに(三)被控訴人が同年一二月三日付でなした減額再更正処分及び過少申告加算税の変更決定(本件再更正処分等)の取消しを求める訴えを追加した。

二  そこで、先ず右(三)の取消し請求について判断するに申告に係る税額につき更正処分がされたのち、いわゆる減額再更正がされた場合、右再更正処分は、それにより減少した税額に係る部分についてのみ法的効果を及ぼすものであり(国税通則法二九条二項)、それ自体は再更正処分の理由のいかんにかかわらず、当初の更正処分とは別個独立の課税処分ではなく、その実質は当初の更正処分の変更であり、それによって税額の一部取消という納税者に有利な効果をもたらす処分と解するのが相当であるから、納税者は右の再更正に対してその救済を求める訴えの利益はなく、専ら減額された当初の更正処分の取消しを訴求することをもって足りるというべきである。よって本件再更正処分等の取消しを求める訴えは不適法として却下を免れない。

次に原審における棄却部分(本件更正処分等の取消しを求める部分)の当否につき更に審究するに、当裁判所も右取消し請求は失当であって棄却を免れないものと判断する。その理由は、次に付加するほか、右請求についての原判決の理由説示と同旨であるから、これを引用する。

1  原判決の補正

(一)  原判決一二枚目裏六行目「となる。」の後に次のとおり付加する。

「従って税額を六万六、二〇〇円、過少申告加算税を三、三〇〇円とする本件更正処分等は、上記算出額をこえることになるが、本件再更正処分等により税額は六万二、五七三円、過少申告加算税は三、一〇〇円にそれぞれ減額され、右算出額以下となったから、本件更正処分等は右の限度で維持され、法的効力を有することになり、結局適法となったものというべきである。

(二)  原判決一三枚目表一行目の「阻げとなるものと」とあるを「防げとなるものとは」と改め、同裏四行目の「違反するものと」の次に「は」を加える。

2  当審における控訴人の主張に対する判断

控訴人は、昭和五二年分所得税の申告に際し、今治税務署員が控訴人は税法上世帯主とみなされるから、そのように申告するよう教示した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、控訴人が宜佳の所得税法九七条にいう合算対象世帯員に当たることは、原判決認定の事実に照らし明らかであるから、右主張は理由がない。また、控訴人は完全失業者で担税力がない控訴人に対し、資産所得の合算制度を適用したことは、著しい不合理である旨主張するが、昭和五四年度に三二万六、八二五円の資産所得(配当所得)が控訴人にあったことは、控訴人も認めるところであり、資産所得の性質から合算対象世帯員のある場合の合算制度に合理性があることは、これに関する被控訴人の主張のとおりであるから、控訴人の前記主張も採用できない。

3  当審において取り調べた証拠を検討しても、原判決の認定判断を左右するに足りない。

三  よって、本件更正処分等の取消し請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却するとともに、当審における本件再更正処分等の取消しを求める追加請求の訴えを却下することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮本勝美 裁判官 早井博昭 裁判官 山脇正道)

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